1日1万歩は歩きすぎ!?
長年、健康づくりの“常識”のようにいわれてきた「1日1万歩」という指針。それにより、毎日ウオーキングに励んでいる人も多いのでは。ところが最近になって「1日1万歩は必要ない」「かえって不健康を招く」という提唱も―。そこで、現在のウオーキングの“新常識”を専門家に聞きました。
【教えてくれたのは…】
四国学院大学社会学部教授
(医学博士)・健康運動指導士
片山 昭彦さん
香川県ウオーキング協会
主席指導員
浮田 千秋さん
1日“1万歩”という数字には 理由があった!
そもそもなぜ「1万歩」という数字が定着したのでしょうか。これには根拠がありました。
寝転んでいても人の体は常にエネルギーを消費しています。この生命維持に必要な内臓や筋肉の活動で消費するエネルギー量のことを「基礎代謝」といいます。周囲の温度や環境などの影響で個人差もありますが、おおむね基礎代謝は「体重1㌔につき25kcal」に相当するとされていて、現代人の平均的なエネルギー摂取量から差し引くと、毎日300kcalが体に蓄積されていくことに(例参照)。そこで300kcalを「歩く」ことで消費しようとすると、30歩がおよそ1kcalといわれているので、30歩×300=9000歩(およそ1万歩)という計算になったようです。
例)体重56㌔の男性の場合
基礎代謝=56㌔×25kcal=1400kcal
仕事でのエネルギー消費量(デスクワークなどが中心の場合)=400kcal程度
つまり、
1日のエネルギー消費量=1400kcal+400kcal=1800kcal
食事からの1日エネルギー摂取量の男性平均値を2100kcal
歩く時の5カ条
・ウオーミングアップとクーリングダウンはしっかりと
・水分補給はこまめに (のどの渇きを感じていなくても15~20分ごとを目安に)
・空腹時や食事直後は避けて
・夜歩く時は反射材などを身に着けて
・仲間をつくって町歩きなどを楽しもう
自分に合った運動強度を知ることが大切
「“歩きすぎ”という判断を歩数のみで行うことはできません」と、健康運動指導士の片山さんは言います。というのも、運動には年齢や個人に合った「運動強度(=運動時の負荷、きつさ)」というものがあり、同じ歩数でも、「速足で歩いたのか、ゆっくり歩いたのか」「普段から運動をしているか、いないか」などによって、その人が感じる疲労度が変わってくるからです。自分に合った「運動強度」を意識せずに、頑張って歩数だけを稼ごうとすれば、膝関節の疾患を発症したり、疲労がたまることで、かえって免疫力低下を招いたりすることもあります。とはいえ、歩くこと自体は体脂肪の減少や筋肉量の増加、循環機能の強化などメリットがたくさん。健康のために歩くのであれば、あなたに適した歩き方を知っておきましょう。
注目すべきは“心拍数”
自分のベストな歩き方を知るには、まず「最大心拍数や目標心拍数を知っておくことが大切」と香川県ウオーキング協会の浮田さん。最大心拍数とは心臓が限界を超える手前の状態のこと。普段運動習慣がない、運動を始めて間もない人が急にここまで心拍数を上げると危険だという目安になります。
最大心拍数は「220-年齢」で計算できます(例:60歳の人だと、220-60=160)。 効果のある歩き方として、よく「少し息が上がるぐらいの速度」「少しきついと思う程度」と表現しますが、これが「運動強度」。安静時心拍数(何もしていない時の心拍数)を0%、最大心拍数を100%とした時、およそ60〜70%で運動する(=運動強度60〜70%)のが運動効果があるといわれ、その時の心拍数が目標心拍数です。
自分の“ベスト”が分かったら、最低でも30分は続けたいところ。しかし、「続けて30分」歩く必要はありません。1日の生活の中で「トータル30分(10分×3回)」と、分けて歩いてもOK。重要なのは心拍数を上げて体内に酸素をいっぱい取り入れる歩き方(有酸素運動)を「継続すること」。一般的に30代半ばを過ぎると筋肉量は年に1%ずつ減り、70代では約半分になるといわれています。逆に筋肉は年齢に関わらず鍛えることも可能なので、いつまでも自分の足で歩き続けられるよう、「食事や入浴と同じように、歩くことも毎日の習慣に取り入れてほしい」と浮田さんは呼びかけます。
歩き疲れはしっかりケアを
★足裏のダルさには…
足指伸ばし
足指を広げ、間に手の指を入れたらゆっくりと甲側に起こしたり足裏側に曲げたりを繰り返す。
★むくみには…
冷×温シャワー
ふくらはぎや太ももに冷たい水と温かいお湯を交互にかけて。血液の循環が良くなり全身に回ってスッキリ。
★太もものダルさには…
太もも裏伸ばし
歩く時に一番使う太ももやお尻周りの筋肉。このあたりをしっかり伸ばし、ほぐしておくと回復が断然違いますよ。背筋は伸ばし、息を吐きながらお尻をゆっくり引いて。目線はまっすぐ前に。
ほかにも…
信号待ちのちょっとした時間にも膝やふくらはぎを伸ばしたり、足首を回したりと、こまめに疲労のもとを取り除くことで疲れを感じにくくなりますよ。